ラブソングを歌え

29/29
前へ
/29ページ
次へ
「あのバカ……」  つぶやいて、凛は乱暴に顔を両手でこする。泣いているのかと思って、俺はそっと凛の肩にふれた。 「俺……、また歌おうと思うんだけどさ」  顔を上げた凛は、穏やかに笑っていた。凛の言葉に、ゆっくり深くうなずく。 「そばに、ネタになってくれるヤツがいてくれないと、ダメなんだよ」  え? ネタ? いきなりなに言い出すんだ? 「なにきょとんとしてんだよ、口説かれてんのに気づけよ」  凛は思いきり俺の頭をこづいて、すねたのかそっぽを向いた。 「だって、そんな、俺……」  意味をなさないつぶやき。うつむいて、俺はなにも言えなくなる。 「俺を信じられないなら、ゆっくりでいい。お前と、恋をやり直したい。ずっと俺のそばにいて、歌う俺を見ててくれ」 「凛……」  見つめあった。ゆっくりと、こころを重ねあわせるように抱きあった。  俺にはまだ、不安もある。おそれもある。ただひたすらに想うことしかできない俺なんかが、凛のそばにいてもいいのかと。  だけど、凛がそれを望んでくれるなら、そばにいよう。凛がラブソングを、ずっと歌っていけるように。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加