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「あのバカ……」
つぶやいて、凛は乱暴に顔を両手でこする。泣いているのかと思って、俺はそっと凛の肩にふれた。
「俺……、また歌おうと思うんだけどさ」
顔を上げた凛は、穏やかに笑っていた。凛の言葉に、ゆっくり深くうなずく。
「そばに、ネタになってくれるヤツがいてくれないと、ダメなんだよ」
え? ネタ? いきなりなに言い出すんだ?
「なにきょとんとしてんだよ、口説かれてんのに気づけよ」
凛は思いきり俺の頭をこづいて、すねたのかそっぽを向いた。
「だって、そんな、俺……」
意味をなさないつぶやき。うつむいて、俺はなにも言えなくなる。
「俺を信じられないなら、ゆっくりでいい。お前と、恋をやり直したい。ずっと俺のそばにいて、歌う俺を見ててくれ」
「凛……」
見つめあった。ゆっくりと、こころを重ねあわせるように抱きあった。
俺にはまだ、不安もある。おそれもある。ただひたすらに想うことしかできない俺なんかが、凛のそばにいてもいいのかと。
だけど、凛がそれを望んでくれるなら、そばにいよう。凛がラブソングを、ずっと歌っていけるように。
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