ラブソングを歌え

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 胸が密着する。俺は驚いた。凛も俺と同じぐらい、激しい鼓動を刻んでいる。  凛は無言のまま、左手で俺の背中を、右手で俺の髪をなでた。鼻と唇が、髪の中に静かに忍び込んでくる。唇がそうっと、俺の耳に触れる。  ため息が漏れた。涙が出そうだった。俺のぬくもりを味わう凛。好きで好きでたまらない相手と、数年ぶりに抱きあえたかのように。 「……キスして、いいか?」  のぞきこんでくる瞳。せつないほどの熱。俺は耐えきれず目をそらし、小さくうなずいた。  凛のぶ厚い手のひらが、俺の頬を包む。長い指が、俺の耳をもてあそぶ。  キスするなら、早くして欲しいと思った。凛の視線。恋人のような優しさ。どうにかなってしまいそうだ。  しばらく俺を見つめたあとで、乾いた唇が重ねあわされた。凛の舌が俺の唇を割り、とろりと口の中に入りこんでくる。  凛の腕に包みこまれての口づけに、俺は夢中になった。優しくかき回されるたび、甘いここちよさに酔わされる。すっかり力の抜けた身体を、凛の腕がしっかり支えてくれる。何度も深く浅く、飢えてるかのようなキス。欲情が満ちていく。 「このままどっか行っちまおうか」  凛は唇を離すと、はにかんだ笑みを浮かべた。テレビでもライブでも見たことのない笑顔。  ああ、凛もこんなふうに子供っぽく優しく笑うことがあるんだ。  俺は今、大久保凛を独占している。ファンが知らない凛を。そう思うと、たまらなく幸せだった。  クラブからもそう遠くない、ベイサイドにあるホテルで、俺は凛に抱かれた。  ベッドサイドの明かりだけにした部屋。  ベッドに横になっている俺のシャツのボタンを、凛がゆっくりはずしていく。時々俺の身体のあちこちに口づける音だけが、広々したアイボリーの部屋に響く。 「きれいな肌だな」  上半身裸になった俺の、凛とは対照的な白くて薄い胸。凛は目を細めて眺め、俺の制服のスラックスを、下着ごと引き抜くように脱がした。 「もうこんなにしてるのか」  淡い光の中でも、てらてらといやらしく光る、限界まで張り詰めた俺。恥ずかしい。 「見かけによらずやらしいんだな。たまんねえ」  唇を短くむさぼった後で、凛も服を脱いだ。無駄のない肉体がさらけ出される。  なめらかな茶色の肌。しっかりした胸板。腕。腹筋がうっすら割れた腹。すらりと伸びる脚。そして、そんな身体の中心で猛る凛自身。
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