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ドアを開けた瞬間、雪混じりの冷たい風が顔に吹き付けた。
あまりの冷たさに一瞬怯みそうになるも、それでも前へ進むために足を踏み出す。
「なあ、ちょっと待てって」
尚の手が私の腕を乱暴に掴んだ。
「なに……」
涙で滲む視界に、私をここへ繋ぎ止めようとする彼の指が映る。
伝わる指の感触、舞い戻る記憶。
肌をくすぐる髪。
合わせた唇。
触れたぬくもり。
一方通行の想い。
おざなりな返事。
守られなかった約束。
クリスマスはもうとっくに終わってしまった。
「ちゃんと俺の話、聞いて、……頼むから」
向けた背中に、懇願するみたいに投げられる声。
どうして今さら、そんな声を出すの。
そんなことを言うの。
私だって、ずっと出していた。
私だって、ずっと待っていた。
そうだったのは、ずっとずっと私だけだった。
「……さよなら」
声を絞り出した喉が、ひりひりした。
白い雪に混じり、涙が一粒、黒いコートに染みを作った。
離れた指の感触が、消えずにずっと残っていた。
―end―
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