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「……ねぇ、なんで?」
深夜一時を過ぎ帰ってきた尚に詰め寄る私の声は、枯れていた。
この日のために奮発して買った白のワンピースは、もうよれよれだった。
時間を掛けた苦手な巻き髪も、もう取れてくしゃくしゃだった。
「だから、ごめんって」
玄関から上がった尚は、頭を掻きながら私の横を通り抜ける。
最近、尚とはこんなのばかりだった。
仕事を理由に、破られてばかりの約束。
何度も聞いてる謝罪の言葉は、意味を持つことなく通り過ぎていく。
「謝って欲しいんじゃないんだってば。……ねぇ、尚。私の話、ちゃんと聞いてよ」
「疲れてるから今日はごめん。明日聞くから」
尚は面倒くさそうにそう言って、私の顔を見ようともせずに、シャツを床へ脱ぎ捨てた。
尚は振り向かない。
私の声は届かない。
ファーのバッグに忍ばせた、指がいつも冷たい尚への、手袋のクリスマスプレゼント。
それに添えた、クリスマスカラーに彩られた手紙。
本当の気持ちは押し殺した、私らしい言葉をたくさん詰めたつもりの尚への手紙。
何度も何度も繰り返した、彼への願い。
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