義父むす

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「保護者のリレーで選手に選ばれたんだ。頼む」  必死で言い募ると、息子は渋々頷いた。  息子は今年もリレーに選ばれ、立派にアンカーを務めた。最後の直線で二人を抜き去り、見事一着。保護者席は大盛り上がりだった。  保護者リレーは最後の組体操の前だ。  サッカー部だった俺は足には自信があった。二着でもらったバトンを握りしめ、必死で走る。ゴール直前で、先頭を走るパパさんを抜いた!  と思った瞬間。  ブチッと大きな音がした。ガクンと足が崩れ、俺は無様にゴールに飛び込んだ。  診断は、アキレス腱断裂。 「頭でテープを切って一位って、あなたらしい」  そう言いながら、妻は一枚の紙を差し出した。 「話は変わるけど、好きな人ができたの。別れて」  とうとう来た――。  俺も、彼女への情はあっても恋心はない。抵抗もせず、離婚届にサインした。  その夜、消灯後のベッドでビデオカメラを操作し、自分が録画したリレーと、ママ友がダビングしてくれた組体操の映像を見た。  妻が新たな恋をしている気配があり、離婚も覚悟していたから、これが「息子」の雄姿を撮る最後のチャンスという予感は当たったのだ。  怖いもの見たさで保護者リレーも再生する。  走る俺をカメラが追う。  そこに音声がかぶった。     
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