『ばらされたく』なかったら……

8/13
前へ
/663ページ
次へ
*** どんなに慣れた仕事でも、ぼんやりしながら進めると上手くいかないものらしい。 いつもより雑に揃えられた商品を目にして、深いため息が出た。 ……もう二度と会うことのない人なのに。 それなのに何度も思い出してしまうなんて、どうかしてる。 私は次の日の明け方、こっそりとホテルを抜け出した。だから相手の連絡先も、名前すらも知らない。 だけど、仕事にも支障が出るくらい何度も思い返してしまうのは…… あの人が、私の名前を知っていたからだ。 あの日、ホテルの部屋に入った瞬間に後ろからぎゅっと抱き締められた。そして耳元でこう囁かれたのだ。 「可愛い人ですね…………アカネさんは」 急に名前を呼ばれて、えっ?!と驚いて振り返った。 『どうして名前を知ってるの?』 そう言いかけたけれど、その言葉を口にする前に唇を塞がれて、私の疑問は彼の身体(ナカ)に飲み込まれてしまった。 動揺と混乱を抱えたままで、私は彼の唇に、手に、指に乱されていったのだ。
/663ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1013人が本棚に入れています
本棚に追加