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彼の一言は衝撃的だった。
名前を呼ばれたその瞬間に、主導権はあっさり向こうに移ってしまった。
私は一気に動揺して、彼のされるがままに……心も身体も乱されてしまったのだから。
でも、夜が明けて冷静な頭で考えた時、名前だけならば何かの拍子に偶然耳にして知ることはあるんじゃないかと思った。
きっとそうだ。
あの時私達はお酒も回ってだいぶ大きな声で話していた。
『うるさい人達だなぁ』くらいには思われていたのかもしれない。
……その考えだって、だいぶ無理があるんだけど。
ただ、私はその可能性にかけて、彼の目が覚める前に逃げるようにホテルを後にした。
だからこの二週間、彼が私の周りに現れるかもしれないと、ずっとびくびくしていたのだ。
スタッフのみんなに心配され、仕事にも支障が出るほどに……
しかし今日まで何も起こらないことを考えると、やっぱり彼は私のことを知っているふりをして動揺させて楽しんでいたのだろう、という結論に至った。
『あなたのことを知っているよ』と、あの男は嘘をついていたのだ。
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