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亨を真っ直ぐ見据えた。私の気持ちを間違いなく、きちんと伝えないといけない。
「……亨。私ね、あなたとは真剣に付き合ってたよ」
「大学の時に失恋してから、どこにもやり場の無かった気持ちを理解しようとしてくれた事も嬉しかった。……だけど、私を試そうとした事は理解出来ない。意地を張って連絡しなかったんじゃないよ……凄くショックだったんだから」
「これ以上、あなたを嫌いになりたくない。……まだ別れていないって言うなら、私から言わせて。……お願いします。別れてください」
これは私なりのけじめだ。
立ち上がって亨に向かって深々と頭を下げる。
そのまま脱力しそうな身体を裕介くんの手が支えてくれた。
「さ、香織、帰ろう」
「待てよ!俺は認めないぞ!!」
帰ろうとする背中に、亨の声が刺さる。
私の身体を支える手はそのままに、裕介くんが後ろを振り返った。
「アンタが認めたくないって言っても、香織の中ではとっくにもうアンタとの事は終わってるんだよ。話聞いて無かったの?」
いつも優しい裕介くんとは思えないくらいの冷たい声に、亨が ぐっ、と声に詰まった気配がした。
「それにさ、頼みの綱の合鍵も、もう使えないよ。香織は今僕の所にいるから。……だから、これ以上彼女に何かしたら僕が黙って無いから、そのつもりで」
裕介くんはそれだけ言い残し、後は後ろを振り返る事も無く私の肩を抱いたまま『Milkyway』を後にした。
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