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「それにさ、香織ちゃんが情けないって言うんだったら、アイツのほうが十倍……いや、百倍は情けないでしょ」
さらに追い打ちをかけるような言い方に、亨には悪いけど、思わず笑ってしまった。
「あはは……。情けないのは私だけじゃなかったね。……そっか。そうだよね……」
「そうだよ」
お互い顔を見合せながらクスクスと笑い合う。
「ふふふっ……」
「あはは……っ、ははっ……あれっ……?」
目の前の裕介くんの姿がぼやけていく。
やけに瞼が、頬が熱いのは、どうしてだろう。
「……そのまま泣いてていいよ。今までずっと泣けなかったでしょ」
瞼にこもる熱の正体を、裕介くんが教えてくれた。
亨にプロポーズを見せつけられて帰ったあの日、一通りの想い出と感情を身体に通過させた後で最後に湧いてきたものは、諦めにも似た乾いた笑いだけだった。
だから、悲しくなんかないって勝手に決めつけてた。
だけど本当は悲しかった。心は張り裂けそうなほど苦しかった。
ほんとうは……ずっとずっと、こうして涙を流したかった。
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