1422人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
……なるほど。ほんとうにこの人は、私の事をよく分かっている。
「終わったよ。……今から泊まれる所なんてあるかなぁ」
元カレに会いたくないから、部屋を出なきゃいけないなんて……自分の部屋なのに、どうしてこんな目にあわないといけないんだろう。
これから泊まる所を探して、運良く見つかったとしても鍵を取り替えるまでホテル住まいで……
鍵を交換するのも、ホテルに泊まるのも結構な出費だし、鍵を替え終わっても……できれば、もうこの部屋には住みたくない。
深い深いため息を吐いて、玄関へと向かう。キャリーバッグのずしりとした重さが、そのまま自分の心の憂鬱さを現しているように思えた。
「泊まるとこなんて探す必要無いよ」
ひょい、と裕介くんが私の手からキャリーバッグを奪いながら言った。
「えっ?……だっ……んっ……」
『だって、』と言いかけた唇に裕介くんの長い指が触れて、それ以上言葉を続けることができなくなった。
「うちに、おいでよ」
形の良い唇の両端がキュッと上がる。
……キッ……キラキラキラースマイルだ。
無意識なのか……
狙い通りなのか……
王子の必殺技が、弱っていた私の心にクリーンヒットした。
そのまま、なすすべも無くずるずると引き摺られるように、今来た道を裕介くんのマンションに向かって引き返して行った。
最初のコメントを投稿しよう!