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呪文自体が4000字を超える長さなのに加え、途中でいくつか含まれる古代語とのかけ言葉も発音のニュアンスで表現する必要があり、もちろん、一言一句すら間違えることを許されない超高難易度の詠唱を、見事にメリッサはやってのけたのだった。
だが、まだ終わってはいない。
魔術は発動から行使段階に移る。水属性と無属性。異なる属性の魔法を並行して行使する難度が、メリッサの顔やローブから覗く手足に血管が浮かび上がらせていく。みちみちと、まるで彼女の脳が軋む音が聞こえるようだった。
実際、魔術の行使による脳の酷使は、酷いときには脳を茹で上がらせることすらあるというし、僕自身、それと思しき廃人を何人か見かけたことがあった。そんなことになる前に――「『癒しの風』!」僕に出来る限りのサポートをさせてもらう。
「貫き! 拡がり! 凍てつかせん!」
メリッサが交差した両手を前に突き出すと、氷柱が進み出す。爆発的な推力により、一瞬にして加速を終え、加速を終える直前には火竜の胸に突き刺ささり、終えたときには背中から先端を飛び出させていた。同時に、粉々に砕け散る。その質量と運動から得られる力を、別の力へと変換したのだ。
別の力――火竜の細胞のひとつひとつを包み、凍てつかせる力に。
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