夜に堕ちる

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「そんな簡単に決めていいことじゃないでしょ」 「唯花がそう思うだけじゃん。唯花だって、受験が辛いから死ぬんでしょ? って分かった風に全部決めつけられると嫌じゃんか。あたしにはあたしの悩みもあるし、考えもあるよー」  塾をサボるのとはわけが違うのに、マイペースな調子は初めて会った時と変わらない。春から半年近い付き合いの中で、わたしが秘かに羨んでいる彼女の長所だ。わたしは何かほっとして、話題を変えた。 「さっきはすごかったね。瀬奈、プロの泥棒みたいにあっさり鍵を開けちゃったし」  瀬奈はにこっと微笑んで、それから少し照れくさそうに肩をすくめた。 「実は前から練習してたんだ。親の部屋とか、学校の用具倉庫とかで」  きっかけはSNSで流れてきたドアの鍵が解錠される断面図の動画だったそうだ。唯花もドラマや漫画で針金二本でガチャガチャするのを見たことがあったが、演出と思って気にしていなかった。筒状のシリンダー錠と呼ぶ鍵穴は、何本かのピストンの高さを調整すると簡単にロックが開く仕組みらしい。古い建物の、古い鍵穴ならなおさらだ。
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