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きらめいた星が一本の尾を曳いて落ちていくと、追いかけて二本三本と続く。視界に収まりきらない空から同時に流れて、銀色の流線が月のいない闇夜を縦に斜めに描いていく。わたしは瞬きするのを忘れていた。
「きれい」
ただ塵が燃え尽きて、地上に堕ちていくだけなのに。
やがて流星雨と呼べるほど絶え間なく降りはじめた天体のシャワーに、広場にいた誰一人としてもう声を上げなかった。流星を数えていた男の子も、一つ一つに感動して言葉を交わしていたカップルも、妻に星座を語り聞かせていた老人も。等しくみんな心を奪われていた。
はあっ、と感嘆の吐息が目の前に白く浮き上がる。
気がつくとわたしは息を止めていた。息苦しくてどきどきする胸をおさえながら、喘いでいた。
朽ちかけの屋上の真ん中で、胸をおさえながら星空と向かい合っているうちに、自然と足がその先端へ向いた。
「あ、ちょ、ちょっと唯花」
上擦った彼女の声を聞いたのは初めてだった。
ほとんど見えない手すりから身を乗り出す。眼下には、摩擦で燃え尽きるには近すぎる地上が広がっている。
わたしにも、あの輝きが出せるだろうか。瀬奈が選んでくれたテールスカートも、この暗闇ではワインレッドの深い赤もくすんでいた。あの星空を前にして、自分と比べることすら馬鹿らしくて、それ以上は前に進むことができなくなっていた。
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