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夜に堕ちる
――本当に悪いことばかりで、思い通りにならない人生でした。 かしこ
「『敬具』のほうがいいかな……」
「どうだろ。修正液ならあるけど使う?」
瀬奈が鞄の中身をぶちまけそうになったので、わたしは慌てて止めた。
「やっぱりいいよ。何度も書き直したって思われると、怖がってるみたいに見えるし」
遺書くらいは一筆書きでズバッと決めたい。本当は書くつもりがなかったけど、事故で落ちたおっちょこちょいに見られるのは嫌だった。
「本当に、瀬奈はいいの」
一緒に、と口に出すのは怖かった。錆びた手すりを持ったまま、瀬奈は体を反らしてわたしに振り返る。昼間はヒヨコのような色の長い金髪も、夕暮れを透かして大人びた深い金色を帯びていた。
「んー。まぁ、いいんじゃない?」
逆さ顔で髪をだらりと垂らして、事もなげに言う。
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