ランドセル

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ランドセル

 帰宅時、近道だからと横切った公園の、ベンチに置かれていたランドセル。  近くに子供の姿はない。だから多分、遊びに夢中になってしまい、ランドセルのことを忘れて帰ってしまったうっかりした子がいるのだろう。  すぐ近くに交番があるから、そこに預けた方がいいのかな。それとも、ランドセルなんて多分誰も持ち去らないから、判りやすく、ここに置いたままにしておくべきかな。  少し迷い、後者に決めてベンチを離れたのだが、公園を出る直前で気になって、やっぱり交番に届けようと踵を返した。  ベンチが見える。まだランドセルはそのままのようだ。でも反対側から男の人がベンチに近づいて行く。  まだ二十歳くらいだから、忘れた子のお父さんが取りに来た訳ではなさそうだ。  私と同じでランドセルが置き忘れられていることが気になり、後半にでも届けようとしてるのかな。  立ったらあの人に任せようと、立ち去りかけた私の視界の先で、突然ランドセルが動き出した。  上部のカバーがべろんと跳ねて開き、中から何か出てくるのが見えたと思った瞬間、男の人が姿を消した。  どう見てもランドセルに吸い込まれたようにしか見えなかった。でも、起こったことが異常すぎて頭が混乱し、身動きが取れない。  怖いというより、事態が飲み込めず立ち尽くす私の視線の先で、ランドセルはピョンピョンと跳ね、公園の繁みの中に消えて行った。  ふと、子供の頃によく聞いた怪談話の類が記憶に甦った。  色んなものに擬態して人間を襲う化け物の話。今のランドセルはそれだったのかな。  ランドセルなんて、置き忘れられていたら高確率で忘れた子供のことが心配になり、交番に預けるとかして、何とか持ち主の手に返して上げたくなる品に化けるなんて。  効率的だとは思うけれど、随分卑怯な化け物だよね。…と、元の位置に置いたままの方が発見されやすいかもと、放置しようとして助かった私が考えてる。 ランドセル…完
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