郁子の弁当吟味

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郁子の弁当吟味

  庵の向かいのあずま屋と、そこからやや離れた草地の上にシートを敷いて然るべきグループに分かれてそれぞれに昼食を摂り始める。梅子の遺恨がいまだなくはないがいつものこととして皆気にもしていないようだ。中でも天衣無縫な郁子がそれぞれのグループを横断しながら各自が持参した弁当の中身を吟味し始めた。和歌を作るよりは料理のほうがよほど得意と思えるほどの料理好きで、どうしても他人の弁当の中身が気になる様子である。まずは自分たちといっしょにいるお嬢様コンビから審査をはじめる。 「すごいですね、匡子さんと慶子さん、お重箱ですか。御自分で料理なさったんですか?」「そんな分けないでしょ」「注文して前日に配達してもらったの、匡子と示し合わせて。和歌の野会らしく雰囲気を出そうと思って。ほほほ」と匡子と慶子がそれぞれ臆面もなく答える。その豪勢ぶりに感心すると思いきやしかし「そうですか。それでは見ても仕方ないですね」とつれなく云って、今度は同じあずま屋内でもちょっと離れた席で弁当をひろげている織江と絹子のもとへと移動する。「わあ、可愛いっ!絹ちゃんと織ちゃんのお弁当。パンダとウサギをご飯やらとりそぼろで形づくったりして。手間がかかったでしょう、自分でつくったの?」織江と絹子はほめてもらったのが嬉しいらしく顔を赤らめて首をふったり頷いたりする。どちらなのか判らない。意味するところはどうやら母親か誰かに教わるか手伝ってもらったかしたようだ。亜希子が自分の弁当を置いてわざわざ見にやって来る。「まあ、本当。すごいわね。食べるのがもったいないくらい。写真に撮っておいたら?」「もう撮りました」織江が小さい声で答える。こしらえたところで家で撮っておいたようだ。「これはたぶん、醤油に浸したカツオ節で色をつけたお握りに、白いご飯のお握りをのせてパンダをこさえたんですよ。目鼻立ちは海苔かな。わあ、マヨネーズで瞳まで入れたりして、超可愛いーっ!待っててね、織ちゃんと絹ちゃん、まだ食べないで。後学の為に写真撮っとくから…」そう云って携帯カメラを取りに行く郁子。匡子と慶子にも見に行くようにとけしかける。織枝と絹子はなかなか箸をつけられそうもないが、普段注目されることがない分嬉しそうにしていた。  その様子をあずま屋からちょっと離れた所で眺めながら梅子グループが弁当を使っている。
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