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どなたか私を叩いてください
「南無観世音大菩薩、御力を貸したまえ…いにしえ、幾多の男、女(おうな)を得給いて、生憎(あやにく)だち給いしを…」などと意を込めて、粛々と唱えるうちに魔法のごとく鳥羽の怒気が引いて行く。
言葉も失ってキョトンとした目付きで僧を見やるばかりとなる。それへ「ありがたい。納得していただけましたか。ではお許しをいただいたとして先を続けさせていただきます」とうそぶいては数珠をしまい、ようやく説話(法話?)の続きとなるが、しかしこの顛末に亜希子や梅子を始め九人の娘らの呆気にとられ、且つ目をみはることはんぱではない。
これが法力というものかと眼前の展開に息を飲む思いである。さすがの恵美も毒気を抜かれ今はおとなしい娘と化している。ただ例のごとく梅子が僧の発した古語を鋭く理解し頭の中にしまったのは見逃せないことだった。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とばかり織江と絹子にやさしく微笑みかけ、且つ鷹揚にうなずいては僧が話を再開する。「さて、神仏に美しい裸体を供養する、まあ結構なことですが、はたして神仏がこれを受け取るでしょうか?その答えは一目瞭然。他への祈念にしても想念にしても、もしこれを受け手が受けざれば、そのような想念の類は息せき切って、それを発した当人のもとに返ってまいります。嘘とお思いなら誰でもかまいません、誰か私に対してお怒りの強い思いをぶつけてみてください。いや、叩いてもかまいません。どうですか、恵美さん、さあ、御遠慮なくどうぞ」と云うのに「いいえ、めっそうもない。伏してお話を頂戴するばかりです」と殊勝らしく恵美が答える。匡子と慶子が思わず吹き出してしまった。こんな口の聞き方ができるのかとなかば感心もしてのことである。
「そうですか。それでは仕方がない。私の話の確証を皆さんの前で実験して示そうと思ったのですが…もし私が、誰であるにせよその方の発した怒りなり不調和な念を受けなかったならば、その念は発した当人のもとへと帰って行くのです。するとどうなるか。その念が本人自身を縛り、その度合によっては諸天善神の法力による脱力状態、もしくは金縛り状態へと陥るやも知れません」 ここでちらっと鳥羽に眼をやって
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