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【一】川崎救出作戦
最近、同僚の川崎の様子がおかしい。仕事上の受け応え以外、全く口をきかない。とはいえ、会社の連中で彼を心配する者は誰もいない。なぜなら、彼は失恋する度に、いつものハイテンションから奈落の底に落ち、また直ぐに恋をしてハイテンションになるというサイクルを延々と繰り返すからだ。彼は見た目にイケメンなので、潮が満ちるようにまた必ず女が押し寄せる。しかし彼のお子ちゃまぶりに失望し、潮が引くようにまた去って行く。そして彼の岸にはいずれまた潮が満ちて来るのだ。
彼の特効薬は、同僚の誰もが知っている。合コンを企画し、「お前も来るか?」と言えば、たちどころに完治するという処方。しかし最近、同僚たちの殆どは既に結婚してるか、大概彼女がいる。となれば、彼女がいない私が、彼の救世主になる他はない状況になっている。放っておいても彼には潮が満ちるのだろうが、どんよりとした黒雲が視界に入るせいか、同僚達の目が「吉月、まだ処方してないのか」と責めて来る。仕方がないので、私は終業後に親友の坂元に電話を掛けた。
《はーい!どうしたの?珍しいね、こんな早い時間に》
坂元は私の前ではいつも明るい。
「いやあ、潮が引いてねえ。」
《あらあ、やっぱり。そろそろかなって思って、川崎君にメールしたんだけど返事が返って来なかったから、もしかして、って思ってたの》
「という訳で、川崎の子供っぽい面も受け入れてくれそうな女の子集めてくれない?」
《オッケー!じゃあ、早速当たってみる。当然、貴方も来るんでしょ?》
「行かなきゃなあ。」
《わーい!楽しみ!》
案の定、坂元はノリノリだが、私は若干引っかかる。もし私が女と仲良くするのを見れば、彼は悲しむのだろうか。五年前の夜戯城の日以来、坂元は私に対する自分の胸中を語ったことは無いが、私の前でだけ彼は女になる。
三日後の夜、坂元から電話が入った。
《チャーオー!女子五人集まったよー》
「おお、やるねえ。」
《来週末って言ってるけど良かった?》
「大丈夫でしょ。男があと二人要るなあ。後輩を二人連れて行くよ。決まりだな。」
《じゃあ川崎君によろしくね、》「ありがとう」《んん、またねー》
「あ、ちょっと待って。」
《ん、なに?》
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