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「俺はどうにもユキオ君に弱いらしい。甘過ぎる気がするよ。
あ、しまった!言われるままにご馳走しないで、放っておいたらどんなイタズラするのか見てみれば良かった!失敗したー」
あれこれ文句を言いたいところだが、昼飯抜きの身では口を突いて出るのは悪態よりも唾液の方だった。
南瓜の甘みがほんのり効いた芳ばしい団子に、絶対こだわったに決まってる醤油の風味。トロミの加減も、子供が喉にに詰まらせないように配慮しているに違いない。
ずっりぃなあ、タレ付き団子のベタベタだけでも時間を稼げるのに、卓上で炙るのかあ。こんなの、子供が絶対好きに決まってるじゃないか!
姉のメールアドレスに、続報を送る。
『現在パパ実家に滞在中。しばらく帰らないからお昼食べてね。
7分対21分超え、トリプルスコアでは完敗だね。
相手が悪いよ、来年はあまり気合い入れ過ぎないように父さん母さんに伝えておいて!』
社長は「俺も腹減った」と言いながら、炙り網にパンやらウインナーやらを乗せ始めた。
子供は火を使っちゃダメだ、なんてもっともらしい事を言って、コンロを独り占めしている。やっぱり子供より子供らしいのは社長だ。
ああ、悔しい。俺はまだまだ考えが浅はかだった。ハロウィンの滞在時間勝負は祖父母同士の争いじゃない。
本当の敵は、社長だったのか。
馬鹿げた事由なら尚更のこと、社長は本領を発揮する。周りにいる俺たちも、毎回毎回なにをそこまでと思いながらも、いつのまにか巻き込まれてしまうのだ。
来年はもうハロウィンの準備はジジババに任せよう。義兄と張り合うつもりは毛頭ない。この手のタイプは味方側に置いて見ているに限る。
俺はとことん、全力で楽しむこの人の姿に弱いらしい。
<社長とユキオ君のハロウィン編 おしまい>
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