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1.早い話 後編
今日はハロウィン。孫たちが可愛いオバケたちに仮装し、父方と母方の両祖父母宅に出向いてお菓子を強請る。
本来なら至って可愛らしい行事のはずだが、祖父母達にとってはどうやら穏やかではらしい。
?Wどちらの家に長く居たのか?W
この一点がどうしても気になる、と。両家は水面下でかなり本気で張り合っている。そこで、オバケたちのパパの兄とママの弟、義理の兄弟の俺たちが仕事を抜け出し、こうして隠れてタイムを計測して逐一報告を入れているという訳だ。
まずはオバケたちの家から近い母方の祖父母の家、つまり俺の実家に訪問するのを物陰から見守る。
閑静な住宅地にスーツ姿の二人組がコソコソしているのはかなり怪しげだ。近所の主婦が今にも通報しそうな顔でこちらを見ていたのに気づき、慌てて優等生な挨拶をして、あらユキオ君だったの!すっかり大きくなっておばちゃんわかんなかったわ!などの定番ご近所トークに適当な相槌を挟みながらそそくさと躱し、実家の玄関横に二人で身を潜めた。
先程、オバケ御一行は徒歩で自宅を出た模様。
緊張しながらその時を待つ俺と社長。
居間から漏れ聞こえる料理番組のオープニングテーマの軽快な調べに、今が平日の昼前であることを改めて思い知らされる。
俺は一体、平日の午前から何をしているのやら。弟ってのは何歳になろうといつだって姉の言いなりなのだ。
俺は良いけど、俺より15歳年上のこの人は、なんでこんな役を引き受けたんだか全く理解できない。
こんなところで呑気に油売ってるけど、この人これでも「超多忙」「アポイントが取れない」との噂に名高いウチの会社の名物社長なんだよね……。
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