2.硬い話 前編

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2.硬い話 前編

 昨日の終業後、社長が直々に俺の同僚 土井を社長室に呼び出した。  そして今日、その社長に呼ばれ、自宅まで案内させられた俺。社長は、土井の呼び出しを俺が知らないと思っているのか、何も言わない。  社長の真意がわからず、俺だけひとりモヤモヤしている。  そんなに土井にご執心だったとは知らなかった。  俺は、ちょっと聞いても良い?と前置きをひとつして、義兄の隣に座った。 「なんで土井?  なんで直接?  仕事のことじゃ無いでしょう?  なんで?  アンタのモノでもあるまいし。」 「ユキオ君、随分な口の利き方だねえ。  自分の会社の代表取締役を捕まえてアンタ呼ばわり? 」  社長はオンオフ切り替えが上手いらしく、プライベートでは俺をユキオ君と呼ぶ。会社では服部と呼び捨て、特別扱いしない約束を守ってくれている。  一方で俺は入社以来ずっと「社長」と呼び続けている。外では止めろと散々言われたが、秘密が露呈してしまわぬよう、保身に走った。社内では、俺たちが義理の兄弟であることは内緒だ。 「直接呼び出してなにが悪いの。  君に許可がいるの?土井は君の部下でも無いのに。  俺、社長だもん。どんな社員も俺の"直属の部下"だもんねー!」  子供ですかアンタは……。 「前々から奴には興味があったんだ、いいチャンスだから呼んでみただけだよ。  一度、ちゃんと会いたいってユキオ君に頼んだでしょう?  どうせ取り次いでくれないだろうけど。」  そう言われて俺が引き合わせるわけないでしょう?社長と俺の繋がりはみんなに内緒にしてるんだから。仕事ならまだしも、プライベートな要件で繋ぐはずが無い訳で。  会社で用意した独身寮で知り合った土井は、企業統合でウチの社員になった奴なので、学年は同じだが厳密には同期ではない。  経理担当に相応しく、堅苦しく思えるほど真面目な土井と、ネクタイとは無縁な俺。始終一緒に居るのが周囲には不思議なのだそうだ。  俺と土井の関係には、どんな名前がつくんだろう。対外的にはこの関係は同僚という括りでいいのか?並の同僚より長い時間一緒に居るとは思う。  ……何か別の呼名があったら、このモヤモヤが少しは落ち着くのだろうか。     
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