3.弱い話 前編

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3.弱い話 前編

 それなりに付き合いは長いけど、義兄の実家に上がり込んだのは初めてだ。想像していた通り年季の入った造作の美しい洋館で、部屋ごとのドアに施された飾り彫りが、いかにも代々きちんと手入れをして引き継がれたものだと分かる深い光を放つ。  玄関から続く長い廊下を二度右に曲がり、突き当たった部屋に通された。  そういえば昼飯を食べ損ねているけれど、今はそれどころではない。 「わかったから、そろそろこっちに集中しろ」  あ……っ、来る……。  集中しろと言われても、気が気じゃない。 「もうちょっと……さあ、みんな入った。」  俺は返事の代わりに吐息をひとつ漏らし、観念して手元のストップウォッチアプリのスタートボタンをタップした。  この人といると、胸の辺りでアラームが鳴る。一筋縄ではいきっこない。悔しいけれど、『正攻法で敵う相手じゃない』と本能で判るのだ。  諸手を挙げて降参してしまえばいいのかも知れないけれど、俺が、そしてこの人が、今の時点で勝敗が決まるのを望んでいない。甘えでも反抗心でも良いから、気の置けない対話を引き延ばしたくてまだまだ悪足掻きをする。  外からでは中の様子はわからないが、来訪を喜び、しきりに奥へ引き込もうとしているのは確実。それは貪欲なまでに。一度引き入れたらもう簡単に離すものかと必死なのだろう。  手元の画面のデジタル表示が、7分を超える。  義兄の口元が、ニタリと歪んだ。 「勝負アリ、だな。」  くそぅ、負けたか。 。。。。。
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