3.弱い話 後編

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3.弱い話 後編

 初めて訪れた旧家。通された部屋は中庭を挟んで玄関の真横だ。テラスに出れば、玄関に誰が来たかすぐにわかるしリビングの様子が漏れ聞こえる。先程賑やかに現れた可愛いおばけの御一行様を確認して押したスタートボタン。タイムはまもなく15分を過ぎようとしているが、オバケはまだ出てこない。  今年のハロウィンの孫滞在時間勝負は、ママ実家服部家の悲願の連勝とは成らなかった。  あんなに真剣に部屋中を飾り、もてなしを考えたのに、今年は何が勝敗を分けたのだろう。 「去年のハロウィンの負けをウチなりに分析したんだ。飾り付け、ラッピング、もちろん菓子の内容を徹底的にリサーチして比較した。  そしてわかった。去年、服部家にあって我が家になかったモノ、それは……」 「……なんでした?」 「持ち帰れない菓子、だよ。去年のお前ン家、かぼちゃ羊羹を作って並べたそうじゃないか。」  ああ、なんでも手掴みで食べちゃう3歳児に合わせて、芋羊羹の南瓜バージョンを棒型にして用意したんだった。  でもそれはほんのオマケで、焼き菓子も、子供達の好きなキャラクターの市販品も山盛りしていた筈だ。 「あのオバケ達、ラッピングした菓子は『ママにお土産にする!』って袋に入れるんだって? そうしたら、あっという間に帰るだろう? 去年の羊羹は剥き出しだったから、その場でモリモリ食べたんだってさ。  そこが勝負の明暗を分けた。」  おう、これが社長の分析力!  この大人、能力を完全に無駄遣いしていやがる。 「そこで今年、我が家は、あいつらの和菓子好きを考慮して、かぼちゃを練りこんだ団子にみたらしだれを掛けたんだよ。  滞在時間を伸ばすには、お持ち帰り用の菓子だけじゃなくてその場でいかに食べさせるかだよ。しかも!きっとみたらしだれで手が汚れる。あわよくば胸元もな。洗い流すのに時間がかかるぞ、ふふふふふ……」  一瞬でも凄いと思った自分を恨んだ。アホくさ。確かに時間は稼げるに違いない。 「社長、アンタは子供ですか。」  大人気ない大人気ない!  この人、「超多忙」「アポイントが取れない」と名高いウチの会社の代表取締役社長なんだけど……。  背中にチャックでも付いてて、中身にアホ男子が入ってるんじゃないか? そうでないなら小学生が社長のコスプレしてるんじゃないだろうか。     
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