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わたしが必死に頼み込むから、運転手さんも意を決してくれたみたいで。
「信号が変わりますね。前の車についていってみましょうか」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
ドアを閉めたタクシーが、路肩から車道の本筋へと合流する。1台の軽自動車を間に挟んで、教え子が乗る推定四駆の追跡が始まった。
ワイルド系な見た目に反して、推定四駆はおとなしく走っている。昭和末ごろな雰囲気の駅前通りから、ちょっとばかり都会のほうへと向かう道。時刻は午後5時過ぎだし、帰宅ラッシュとは逆方向だから、車はそこそこ流れている。
運転手さんがラジオの音量を下げて、バックミラーでわたしの顔を見た。
「しかし、家庭訪問ですか。懐かしい響きですねえ。うちの子も最近まで小学校にいたような気がしてたんですが、数えてみれば7年も前でした。今、高校生ですよ」
「うちの学校では、家庭訪問は5月の一大イベントなんです。なのにですよ、1人だけ、どうしても保護者さんと連絡の付かない子がいて、家庭訪問できてなくてですね。家の電話はつねに留守電だし、とにかくその子の家に行こうとしてたら、途中でこんなことになって」
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