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雑居ビルが並んでる通りだ。ちまちました飲み屋やバーがひしめいて、どれがどれだか、1回来ただけじゃ忘れちゃう感じの。
「どうしてこんなところに?」
「いや、ここで降りるお客さん、たまにおられますよ」
「え? 有名なお店でもあるんですか?」
「そこの地下に、ライヴハウスがあるそうです」
「ライヴハウス?」
「ええ。老舗だそうですよ。毎晩ジャズだけをやっているらしく、店構えはあのとおり、こぢんまりしているんですが、国内外から有名なバンドも来るんだとか。ああ、前の車、やっぱりそこに停まりますね」
運転手さんが指差した途端、路肩に付けた車の助手席から、らみちゃんがピョンと跳び下りた。らみちゃんが車にバイバイと手を振って、車中のシルエットもらみちゃんに手を振り返して、それから車が再発進する。
らみちゃんは車を見送りもせず、迷いもなく地下のライヴハウスへ続く階段を下りていった。
「運転手さん、わたしも降ります!」
「はいはい。先生、頑張ってくださいね」
料金メーターは、すでに止めてあった。たいした金額じゃなくて、ホッとする。手早く清算を済ませて外に転がり出ると、湿度の高い夕方の空気は、思ってたより暑かった。
「ライヴハウス・デューク……?」
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