光る人魚

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 しかし見る人が見ればわかる。私にはピンときた。そしてもう一人、日本でピンときた人がこの人。私の隣に座るイケメンでやり手の海洋研究機構研究員、小田茂樹さんである。小田さんは私の研究を公募採用し、計画を立て、グリーンランド海への国際調査潜航を申請。すると、すぐさまグリーンランドが拒否権を発動。天候が調査に適さない、というのがその理由だったそうだ。その返事をもらって、小田さんは更に確信を深めたという。絶対にある。絶対に何かある。  小田さんの次の手はノルウェーだった。ノルウェー側からグリーンランド海への調査潜航の許可を取るのである。果たして許可は下りた。ノルウェー側の海洋調査機構にもこの動画にピンときている人物がいたのである。それが今小田さんの向こう側に座っている巨漢、髭面で大酒飲みでアル中ジョンと言われているおっさん、ジョナサン・ブレーク。ノルウェー海洋調査機構主幹。ジョンがノルウェー海洋調査機構を通じて出してきた返答が、調査を許可する、但し、当方の研究員も乗船させろ、だった。  数日前初めて会った時、ジョンは小田さんと私を前にして髭面の奥でにやりと笑った。そして英語でこう言った。  「さて、生物進化の過程を調べに行こうや」  確かにそれが私の正式な研究目的だった。私が笑おうとしたら小田さんが先に笑った。口に出さなくても通じている。文書に書かなくても分かり合えている。私達は人魚を探している。しかしそれは公に言えることではない。公にする必要はない。小田さんと私が笑い出すと、ジョンがお腹を抱えて笑い出した。  「うまくやってくれたな、シゲキ、アキコ。渡りに船とはこのことだったよ」  そこから、私達3人の海底への旅が始まった。
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