光る人魚

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光る人魚

2018年10月2日 しんかい6500 潜航1日目  場所:グリーンランド海沖 北緯66度 西経20度  天候:曇 摂氏15度  深度100mを超えた。順調に潜航中。ここから先は太陽の光が完全に届かなくなる。潜航艇の丸窓から見える世界。とても狭い。前照灯に照らし出されているのはマリンスノー。海中に降る雪。舞い上がっているように見えるのは、マリンスノーが降る速度よりもしんかい6500の潜航速度が速いためだ。  私は山崎亜希子。東亜大学海洋学部で海洋生物の研究をしている。深海生物が専門だ。そんな私にとって、今回の調査は夢の実現だった。しんかい6500は海洋研究機構の潜水調査船だが、その調査研究公募に私のプランが採用されたのだ。深海生物といえばグリーンランド海。グリーンランド海といえば人魚。私は人魚の研究をしている。人魚に興味があったからこの職を選んだのだ。しかしそんなテーマでは調査企画は通らない。国から予算が下りない。それどころか、大学からも予算は下りない。なので私はそんなことは一切言わない。代わりの私の研究テーマはこうだ。「深海の特殊環境がもたらす生物進化の影響」。光と酸素が無く、1トンに近い水圧という環境負荷がかかった状態で生物がいかに進化していくか。この研究は今後の人類の進化サバイバルにも僥倖をもたらすに違いないのです、というのが私の売り文句だ。
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