プロローグ

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 スローガンだけでは絵に描いた餅である。実際にそれを行うには強行する必要があった。それが「大掃討作戦」と呼ばれた人類の掃除である。主に行われたのが気象兵器による天災である。地震、津波、ハリケーンなどにより、人も土地も更地に出来る。そして抵抗する国々に対しては適当な大義名分を付け、世界政府の名のもと連合軍隊を投入し政権を転覆させる。また疫病を装った細菌兵器と電磁波兵器、ワクチンを装った毒液の接種による殺人、化学添加物と遺伝子組み換え食品よる短命計画も常態化して実施された。その結果、70億人いた世界の人口は現在10億人程にまで激減し、700万人ほどの支配層と9億数千人の一般層と貧民層という極端な人口分布となっている。  空白になった国々は工業エリアと農水産業エリアに分けられ、生き残った人々はそれらの仕事に従事させられた。主に自然環境に恵まれない途上国地域は工業エリアに、水と緑が豊富な地域は農水産業エリアとした。世界政府の中心部は総司令本部と呼ばれ、かつてのベルギーの首都ブリュッセルに置かれている。各国家は解体され世界政府の管理区域(CA:controlled area)と呼ばれた。例えばかつてメキシコと呼ばれた国は「メキシコCA」と言った具合に、新たな名前を付けること無く、人々が認識しやすくする事も意識した呼称とされた。  通貨は2038年の世界大恐慌をきっかけに、新たな基軸通貨として「メイソル」という通貨ポイントによる電子マネーに切り替えられた。現金はもちろんカードなどを携帯する必要は無く、身体に埋め込まれた個人情報を経ての取引となったのだ。「埋め込む」と言うのは当初はマイクロチップのようなものであったが、それを切除して奪う犯罪が横行したため現在では細胞に情報を焼き付けるLT(レーザータトゥー)が主流となっている。細胞が死ねばその情報は無効となる仕組みだ。LTは生まれた時に世界市民として登録された者のみに与えられた。これを通して個人が中央政府に管理監視される。つまりそれが無い者はパンを買う事すら出来ないのである。
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