3・私は何者?

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「ふーん。ロマンチックね」 「今みたいに子供達を地域の施設が育てるのでなく、父親と母親が協力して自分の子供を育てたんだ。血族だけの単体で生活をしていた」 「あぁ、何となく知ってる。歴史で教わった気がする」 「あ、そう?」 「家族って言うんだよね?」 「そう、そう」 「そのまねごとをしたかったのね。でも、何でここの子供達はそれを知っているの? コウガとニックも知っているんでしょ?」  と疑問に思うリリカに老人のリーダー格のスズキが答えた。 「わしらが教えているんだよ。古き良き時代の人間らしい本当の暮らしを」 「本当の暮らし?」 「そうだ。愛し合う者同士が結婚をして、子を産み、その成長を楽しみに家族で助け合って暮らして行く。そんな暮らしだよ」 「・・・・・・」 「父親は外で働いた対価をもらって家族を養う。母親は家の仕事をする。洗濯や掃除をしたり食事を作ったりして、父親がいない時間の家と子供を守るんじゃ」 「それはそれで楽しそうな暮らしね」 「ああ、大変だけど楽しい暮らしだ。新世界秩序以降、我々貧乏人は政府から放置され、子供はまともな教育すら受けられない。結婚も無くなった。身寄りの無い者同士こうやって助け合いながら生きていくしかない。だけど金持ち連中よりよっぽど人間らしい暮らしをしておるよ」 「この暮らしが?」  不思議に思うリリカ。何となく元の自分がうっすらと見え隠れしているのだった。 「リリカはどうもあっちの世界の人間だろ?」  黙って聞いていたニックが口を開いた。 「あっち?」 「塀の中だよ。どっかのCA中央区。ナゴヤから来たんじゃねぇの?」  じっとリリカを注視するニック。
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