3・私は何者?

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「・・・思い出せないの」  カップの紅茶に目を落とすリリカ。 「連合軍や警察かも知れないから、少なくとも俺達より身分は上だよ。管理する側だよ、きっと」  ニックはうすら笑いを浮かべる。 「それでも中央区に生まれたって大変だぞ」  スズキが話を続けた。 「子供はセンターが育てる。親に会えるのも月に一度ほど。親と言っても母親しか知らない。自分が人工授精で生まれたのか、誰かのクローンなのかも分からない。情報保護法で母親からも知らされないからね。そして物心が付いたらひたすら競争に勝つための教育とトレーニング。大人になっても競争から漏れてDNAの価値が低ければ出世はできない」 「でもそのDNAの価値を上げる事は努力で出来るんじゃない?」  リリカがスズキに尋ねると、 「まぁその価値を一気に上げるには映画スターやシンガーで名を馳せるしか無いかも知れないよ。そこでもまた競争だけどね」  皮肉をこめて言うスズキ。  映画やテレビはまだこの時代でも娯楽として存在した。しかしその意味は情報操作と洗脳が目的であった。それは当時と変わらない。  しかしこのシェルターでは一切子供達にそれらを見せていなかった。コウガとニックも同じように育ったから情報には疎い。そのためテレビを観て育った他の子供達と比較してピュアなところがあった。教わる事は老人達から全て教わって来た。それは人間としての精神論と道徳だけである。あとは日々の生活と仕事の中から知恵と工夫、生きる術を自分で学んで来た。
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