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ネームレス達を育てる「シェルター」と呼ばれる施設がある。ここではLTを持っている老人達が身寄りの無いネームレスの子供達を赤子の時から育ててくれていた。老人たちもまた身寄りが無く、助け合いながら共同生活をしているのである。コウガのような年頃の青年達には仮設プレハブ住宅のような部屋が与えられていた。部屋と言っても一人の居住スペースは畳2畳ほどの空間。それが蜂の巣のように区切られた簡易住居である。
「タマネギとブドウだよね」
コウガがブラブラと歩きながらニックに聞く。
「今日はナス畑にも行ってくれだってさ」
ニックが仕事を受けて来るようだ。
「え? どこ?」
「すぐ近くだよ。忙しいぞ、今日は」
「いっぱい稼げるね。シェルターに土産も持って帰ってやろうぜ」
「そうだな。子供達のお菓子があるといいな」
「うん。そうだね」
コウガ達にはLTが無い。そのため働いた賃金は主に食糧に換算して現物をもらう。働いたポイントを記した紙にサインを貰い、マーケットと呼ばれる闇交換所で現物と替えてもらうのだった。そのサインが結局は紙幣のような役割をしていた。どうやってポイントに換金されるのかは闇取引業者のみが知っている。交換所には衣類やその他生活用品もある。運がいいとお菓子がある時がある。それをシェルターに持って帰ってやると子供達が喜ぶ。コウガもそうして育ったから、今は自分がしてやっている。
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