不眠症

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部屋から薄暗い廊下に出ると、どこまでも同じ扉が規則正しく並んでいる。 見慣れた光景にうんざりしながら長い道のりを抜けると、小さなエントランスホールに出た。 昼頃だろうか。ガラス張りの自動ドアから差し込む自然光が目に痛い。 眩しさに顔をしかめてホールに足を踏み入れる。視線を巡らせると、壁際にぽつんと置かれた受付で墓守さんが片手をあげているのが見えた。 「やあ、こんにちは」 私の様子に気付くと「今日は天気がいいからね。眩しいよね」と笑いかけてくる。 墓守さんは、血の気の通わない真っ白な顔と左腕に包帯を巻いている以外は、どこにでもいるような普通の男の人。 私達が眠るこの施設の管理を任されているから、みんなから『墓守』さんというあだ名で呼ばれているらしい。 「また起きちゃった。もういい加減に寝たいのに」 「不眠症にとっては49日への道のりは遠いよね。お疲れさま」 「こんな状態で眠れる日が来るのかなぁ」 「うーん…その辺は人によるとしか。何度目かの眠りで埋葬まで行ける人もいるから」 「いいなー、どこが違うんだろ……」 「そうだねぇ」 墓守さんは私のぼやきに頷き返しながら、受付に置かれたパソコンに手を伸ばす。 私の眠りについた日時の確認と、起きた日時を記録するためだろう。それも墓守さんの仕事のひとつらしい。 起きたところで何もすることがない私は、受付カウンターに頬杖をついてそれを眺めることにした。 墓守さんは、右手で素早くキーボードを叩いて情報を入力していく。ふと、その隣に本が置かれているのが目に入った。 「あ、これ?僕、最近エッセイ出したんだよ」 私の視線に気付いた墓守さんが、本を手にとって差し出してくる。 その表紙には真っ白な顔で微笑を浮かべる墓守さん。タイトルは…… ―― 不眠症になった僕 死んでからの生き方 ―― 「どう?どう?」 「死んでからの生き方って、すごい矛盾」 「だからインパクトがあるんだよ」 得意げに胸を張る墓守さん。 私みたいな不眠症が増えている今、確かにこのタイトルは興味を引くのかもしれない。けれど……
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