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「死んでからも生きるなんて、私は嫌だな」
だから眠ろうとあれこれ努力しているのに。
ヒーリングミュージックをかけたり、アロマを焚いたり。クッションにだってこだわったし、最近は眠る一時間前にはスマホを見ないようにしている。
それでも眠れないのだから、不眠症とは厄介だ。
「気持ちはよく分かるよ。僕も以前はそうだったからね」
墓守さんは頷くと、机の上に置かれた自分の左手に視線を落とした。
手首から肘にかけて巻かれた、真っ白な包帯。その先の左手は、墓守さんの右手がキーボードを忙しなく叩いている間も、ピクリとも動かなかった。
眠るために手首を切ってしまったから、その先は二度と動かないらしい。
「最初はさ、左手も動かなくて不便だし、何で眠れないんだって思ってたんだよね。でも……こんな状態になって初めて、俺の言葉に耳を傾ける人が出てきた」
墓守さんは左腕を包帯の上から撫でながら、「それまで誰も俺の話なんて聞いてくれなかったんだけどね」と続けた。
それは私や、ここに眠るみんなが経験したことのある寂しさだろう。
だからこそ、私には墓守さんの気持ちが分からなかった。
「今更なんなの、って私は思っちゃうんだけど」
そう言って唇を尖らせる。
話を聞くなら、手を差し伸べるなら、生きている間にしてくれればいいのに。
今となってはどんな言葉も優しさも遅いし、腹がたつだけだ。
「あはは、俺は単純だからさ」
墓守さんは頭をかきながら、からからと笑った。
「……でもまあ、悪い事ばかりじゃないのは本当だよ。面白いものもできたしね」
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