不眠症

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不眠症

目を覚ますと真っ暗だった。 クッションの隙間に押し込んだスマホを手探りで取り出し、電源のボタンを押す。 起動するスマホがうっすらと照らし出したのは、見慣れた小窓の裏面。 眠ってから49日にも満たない事を知らせてくるホーム画面に、ため息を漏らすのは何度目だろう。 「またか……」 そのまま二度寝する気にもなれず、私は起きる事にした。 小窓が取り付けられた蓋に、膝と両手のひらを押し当てて持ち上げる。そのまま左側に傾けて壁と棺桶の間に滑り込ませると硬い床にぶつかる音が響いた。けれどこの部屋の壁は防音だから、隣室で眠っている人達を起こす心配はない。 私は起き上がって伸びをすると、自分が収まっていた棺桶に手をかけて立ち上がった。 冷房完備といえば聞こえはいいけれど、この部屋には窓がない。明かりだってちっぽけな蛍光灯一本だけ。家具だってひとつもない……というよりは、そもそも置くスペースがない。 とはいえ棺桶ひとつがあれば私達には事足りるから、何か欲しいわけでもないのだけれど。 ここは眠るためだけに作られた部屋。 そして私は、今回も眠りにつけなかった訳だ。
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