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ななつ山
小学四年生の三条陽人は、夏休みを祖父母の家で過ごしています。
父がお盆休みを終えて自宅へ帰った次の日、陽人は祖父に教えてもらった「ななつ山」へとやってきました。
今は正午すこし前です。
林道に車を停めて5分ほど歩いたところで、陽人の目の前に、切り立った崖が現れました。
むき出しの地層が、鮮やかな縞模様を見せています。
何千万年、何億年という気が遠くなるような時間をかけて積み重なった土の層は、地球の記録メディアです。
化石マニアの陽人は、もっと近くで見ようと笹やぶに手を伸ばしました。
すぐに後ろから声がかかります。
「手ぶくろをしなさい。けがするでしょ」
ふり返れば、母がリュックを片手に追ってきています。
「やだ。このあたり、苔で滑るじゃない」
サンダル履きの足元は不安定で、母はときどき足を滑らせます。
見ている陽人は、はらはらしました。
「足もとに気をつけて。走るとあぶないよ」
「分かってるわよ、なまいきね。それより虫よけ、もう一回しておきなさい」
なんど同じことをくり返すのでしょう。
ついさっき、母にしつこく言われてスプレーしたばかりなのに。
「ひとりで探すよ。車で待っていれば?」
「ほっといたら、いつ戻ってくるか分からないでしょう。暗くなる前に帰りたいの」
「まだななつ山に来たばかりじゃないか」
それに、まだ正午前です。
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