重ねた指先のその先に

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 黒板にぎっしりと書かれた文字を茫然と見つめながら思った。    ーーつまらない。  心の声をそのままに、ノートの端に書き滑らせた自分の文字を見て自嘲気味に笑った後、先生の口から淡々と話される授業の内容をどこか遠くに聞きながら、僕は小さく溜め息を吐いた。  一方的に先生が喋って終わる授業風景は慣れており、そこに不満があるというわけではなく、かといって、決して授業が簡単過ぎてつまらないという事でもなかった。  じゃあ、何がつまらないのか。正直なところ、自分でも良くわからなかった。つまらないに理由はないのだろう。しいて言うなら、自分という人間が酷くつまらないーー僕はそう感じていた。  小学生の頃は、引っ込み思案な性格の僕でも友達はそれなりにいたし、好きな女の子もいた。しかし、中学に上がり、身長がやや伸び始めた頃だろうか。何故か、同性を意識し始めるようになった。  最初は、自分より体格の良い同性に対する憧れだと思っていたが、そこに興奮を感じている自分に気付いてしまってからは、「僕はそっち側の人間なんだ」と認めざるおえなかった。  それからは、友人達の口から出る思春期ならではの会話に乗ることも出来ず、僕は同性の 友人から距離をとり、自分の性癖がばれないようにこの一瞬を過ごす日々を送っている。  そんな毎日は、酷くつまらく、苦痛だった。  「ーーあ、しまった」  学校から帰宅した後、本屋に行こうと思い、鞄から財布を取り出そうとした時、僕はあることに気付き、思わず声が出た。  一冊のノートを机の中に置き忘れてしまったのだ。  大半の人は、置き勉くらい気にすることないだろうと思うかもしれないが、僕が通っている高校は定時制も兼ねている為、二年に上がったタイミングで、僕のクラスの教室は、夜間の生徒達の教室としても使われているのだ。  ーー落書きとかされてなければ良いけど……変に使われてたりしたら嫌だなぁ。  今から取りに戻るのも億劫に感じ、半ば諦めて、当初の予定通り本屋に行く為、家を出た。  
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