重ねた指先のその先に

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 次の日、いつもの様に重い足取りで学校に行き、自分の席に着いた後、真っ先に昨日置き忘れたノートを手に取り、中身を確認した。  特に破かれた様子も無ければ、落書きも見当たらない。  良かったーーそう安堵した時、一か所だけ、明らかに自分の文字ではない誰かの文字が視界に入り、僕は息を飲みこんだ。  「つまらない」そうノートの端に書いた自分の言葉の下に、右肩上がりの文字で「何で?」と書いてあったのだ。  夜間の生徒が面白がって書いたのだろうか。それにしては、そこ以外には何も悪戯された形跡は無く、何より、不思議なことに、その三文字に人を馬鹿にしている様子が感じられなかった。  字体からして、男の字だ……。    いつもの僕だったら、何で?と訊かれたら、何でも良いだろ?と、そう返して相手にしないのだが、何故か、この文字を書いた人が、一体どういう意味を持って、こんな言葉に問いかけをしたのか気になってしまった。  幸い、そのノートは新しく取り替えたばかりのもので、授業の内容も大して書いていない。  僕は、一ページ捲った最初の行に、「自分がつまらない人間だから」と書いて、机の中に閉まった。  その日から、僕と顔も名前も知らない誰かさんとの交換日記が始まったのだったーー。  結論から言うと、交換日記は意外にも続いた。一か月が過ぎ、三か月が過ぎ、それでも会話が終わることは無かった。  お互いの事を「君」と呼び、決して名前は教えないーーとても奇妙な関係だと僕でも思うが、確かな心地よさがあった。  勿論、相手の事で分かったことも沢山ある。  性別は男、年は僕よりも上、昼間はアルバイトをして大学に行く学費を稼いでおり、来年はセンター試験に挑むらしい。  数年違うだけなのに、将来のことなど何も考えていない自分と比べると、とても輝いて見えた。
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