2.失ったもの

3/9
1255人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
二人から一人になっただけで、こんなに空気が変わるものか。颯は小さくため息をついた。 学生時代から一人暮らしをしている颯にとっては、二人暮らしよりも一人の生活の方が断然長い。 それでも、誰かがいる安心感、おかえり、という柔らかい笑顔が消えてしまったこの部屋には、拒絶されている気さえする。 「あー。夕飯・・」 適当に何か作るか、と冷蔵庫を開けた。旭が買い足してくれていた肉や野菜があるが、何も作る気になれず、バタンと閉めた。 結局、カップラーメンを啜り、さっさと布団に潜り込んだ。 しんとした部屋で、仰向けになって目も開けたまま、また考える。 そんなに、結婚したかったのか、旭は。 颯も旭も地元は東京ではない。どちらも、都会というより長閑な田舎に実家がある。中学の同級生はほぼ結婚して子どもがいるような。 お互いの親からも、帰省の際には100%結婚はまだかと聞かれていた。 実は、結構焦ってたのか? 旭の高校や大学の同級生になると、半分くらいはまだ結婚もしていなかったはずだ。颯も同じで、東京に出てきてからは、30になってから考えようとしている所があった。 広々と使えるはずのベットはやけに冷たく感じて、何度も寝返りを打ち、最終的には芋虫のように布団に包まって眠りに落ちた。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!