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「いやいや、いつもの、・・冗談だろ」
ずず、と味噌汁をすすり、旭を見ないようにする。
旭の言葉は、俺が発した、「お前ってほんと感情の浮き沈み激しい。疲れる。」という言葉に対して出たものだった。
これまで口喧嘩は会社での喧嘩を含め数え切れない程しているが、旭の口から『別れ』という言葉が出たのはこれが初めてだ。これまで付き合った女の中で、「もういい!別れる!」(=私に構って!引き留めて!)という女が何人かいたが、それと同じような面倒なやりとりが始まるのだろうか。
「それ、何回も言われたし・・」
ちら、と旭の方を見る。冷静に話す姿は、これまでのもういい別れる女子とはどうも結びつかない。現に、世間話をしているかのように肉をつつきながら旭は言う。
「治そうと・・思ってるけど、どうしても、治る気がしない。」
またいつものネガティブモードだな。そう思い、笑顔で話す。
「ほら、お前、またネガティブモードなってる。
明るく考えろって。さっきのは、じゃれ合い、じゃれ合い。」
さっさと旭の感情を浮上させたいと思った。会社では、「クールで仕事の出来る榛名さん」だが、同棲してみて、会社で溜め込んだものを家で吐き出すタイプだと分かっていた。
頭の硬い部長に嫌味を言われた日にはソファの上で抱きついてきてずっとグチグチと言っていたし(その間俺は携帯でゲームをしていたのだが)、
取引先からの無茶な要望が入ったときは、まるで某アニメのスーパー○イヤ人のように両手を握りしめて上を向いて「うあぁぁー!」と叫んでいた。(変身するかと思った。)
姉二人を持つ俺は、その対処法を知っている。つもりだ。
さっさと気持ちを切り替えさせるのが、一番。
いつもなら、ケロリとした俺の笑顔に引っ張られて浮上して来るはずだが、今日はやけに潜水を続けている。
少し自分の心臓の動きがいつもより速くなった気がした。
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