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「旭ちゃーん」
頬を掴んでやろうと思って中腰になり手を伸ばした所で、旭の悲しそうな目がこちらを向いた。
ドキリとする。
「橘くんが言ってたよ。『瀬戸口さん、今の彼女とは結婚考えてないんですって』って。」
途端に、ギュ、と心臓を掴まれたようになった。
やば。
言葉がすぐに出ず、グッと詰まる。
「・・いや、だってほら、考えてる、とか言ったらまたしつこく聞いてくるじゃん、あいつ。だから・・」
「もう、お互い29だし、違うと思うなら、別れたほうがいいと思う。」
旭は箸で挟んだ肉を口に運んだ。
やばい。
引き留めないと。
すぐにそう思った。が、旭とこのまま付き合い続けていいのかという気持ちも正直あった。
旭とは、期末の飲み会でお互いベロンベロンになって、気付いたら俺の部屋でお互い裸で絡み合っていた、という始まりだったし、その後も気付いたら半同棲状態。とにかく何もかもをなし崩し的に始めてしまった付き合いだった。
会社でイメージしていた女性とは違ったのは確かだし、一緒に暮らしてみて気が合うとは思うが、好きかどうか、と聞かれると未だによく分からない。結婚となるとなおさらだ。
「旭・・」
詰まった俺を見て、旭はいつもみたいに笑った。
「ほら。」
同棲してみて、分かって、よかったじゃん。
嫌味でなく優しい言葉に、どうしても上手い言葉が返せなかった。
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