1.突然の別れ話

5/11
前へ
/73ページ
次へ
結局残務処理で21時を過ぎてしまい、家につく頃には22時手前になってしまっていた。 「ただいま」 少し恐る恐るリビングのドアを開けると、ふわりと食欲をそそるいい匂いがする。 あ、これは・・ 「麻婆豆腐?」 そんなに大きな声で言ったつもりは無いが、あたりー、と別の方向から声が聞こえる。麻婆豆腐は旭の作る料理の中でも、俺が一番好きなメニューだ。山椒とニンニクが効いていてめちゃくちゃ美味い。 台所では無く寝室から声が聞こえる事を不思議に思い、何してるんだ?とドアの隙間から覗いて、固まった。 旭は、床にスーツケースを広げて、衣類を詰めている所だった。 「え」 それしか言えず固まった俺に、旭が困ったように笑って言う。 「ごめん、ほんとは今日出るつもりだったんだけど、難しそう。」 明日でもいい? そう聞く旭に、焦りが急に湧いてくる。 「ちょ、ちょっと待って。別れるの、決定?」 次は旭がきょとんとする番だった。 「決定、だと思ってたんだけど・・・」 あまりにあっけらかんと言う姿に、腹が立ってくる。その気持ちのままに言葉を発した。 「男、出来たとか?」 上目遣いに旭が睨んでくる。 「出来てない。」 「じゃぁ、なんで。」 畳み掛けるように聞く俺に、旭はうーん、と詰めかけの服を見ながら言った。 「だって、颯、私のこと好きじゃないでしょ」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1279人が本棚に入れています
本棚に追加