9.二年間

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「じゃぁ、香月さんは君の提案を飲んだんだ。」 桐山はテーブルを挟んで座る旭に言った。 はい、と誇らしげに答える。 旭は、営業サポートを極めたいという希望と、香月が求める女性管理職への挑戦について、つい先日まで折り合いがつかず、価値観の押し付け合いのようなやり取りを続けてきた。 旭の頑張りを認めてくれるようにはなったが、管理職を目指さない立場を、面談のたびに甘い、甘い、と指摘された。 旭が自分にさせて欲しいと提案したのは、営業サポートのスーパーバイザーとして各部署をまわり、業務効率のアップを成果とするような立場だった。 「どう説得したの?」 楽しそうに桐山が聞く。 「最終的には、会社で初の実績になります、という言葉で決まりました。」 さすが、彼女の大好きな言葉だね、と笑った。 「君の、そういう強かなところも好きだよ。」 突然の言葉に、旭は固まった。この人は、油断をさせておいて急に斬り込んでくるようなことをする。 さて、と桐山が両手をテーブルの上で組む。 「何度も君には告げてきたけど、これを最後にする。」 「君のことが、好きだよ。」 「俺と結婚して欲しい。」 射抜くような視線から目をそらさず、旭は答える。 「ごめんなさい。」 はぁ、と桐山がため息をついた。 「彼と結婚しなかった時のために保留にしない?」  「しません。」 その言葉を言った途端、あー、と、脱力したように背にもたれかかった。 「人生であんなに全力で人を誘惑したのは初めてだよ。」 思い出して顔が赤くなる。 「私も、初めてでした。」 その言葉に、そう?と少し嬉しそうに言う桐山に笑顔を見せる。 恋愛よりも、仕事の方が、ずっと楽だな。 そう言って、彼はどこか満足そうに微笑んだ。
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