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「じゃぁ、香月さんは君の提案を飲んだんだ。」
桐山はテーブルを挟んで座る旭に言った。
はい、と誇らしげに答える。
旭は、営業サポートを極めたいという希望と、香月が求める女性管理職への挑戦について、つい先日まで折り合いがつかず、価値観の押し付け合いのようなやり取りを続けてきた。
旭の頑張りを認めてくれるようにはなったが、管理職を目指さない立場を、面談のたびに甘い、甘い、と指摘された。
旭が自分にさせて欲しいと提案したのは、営業サポートのスーパーバイザーとして各部署をまわり、業務効率のアップを成果とするような立場だった。
「どう説得したの?」
楽しそうに桐山が聞く。
「最終的には、会社で初の実績になります、という言葉で決まりました。」
さすが、彼女の大好きな言葉だね、と笑った。
「君の、そういう強かなところも好きだよ。」
突然の言葉に、旭は固まった。この人は、油断をさせておいて急に斬り込んでくるようなことをする。
さて、と桐山が両手をテーブルの上で組む。
「何度も君には告げてきたけど、これを最後にする。」
「君のことが、好きだよ。」
「俺と結婚して欲しい。」
射抜くような視線から目をそらさず、旭は答える。
「ごめんなさい。」
はぁ、と桐山がため息をついた。
「彼と結婚しなかった時のために保留にしない?」
「しません。」
その言葉を言った途端、あー、と、脱力したように背にもたれかかった。
「人生であんなに全力で人を誘惑したのは初めてだよ。」
思い出して顔が赤くなる。
「私も、初めてでした。」
その言葉に、そう?と少し嬉しそうに言う桐山に笑顔を見せる。
恋愛よりも、仕事の方が、ずっと楽だな。
そう言って、彼はどこか満足そうに微笑んだ。
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