<第二話>

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 二番目でいいなんて――そんな簡単に割り切れるなら。こんな恋など最初からしていなかったのである。気がついた時にはもう手遅れだった。ずぶずぶと嵌まり込む沼はあまりにも深く、底が見えず――救いようのないほど沈んでしまって、今まさに途方に暮れているところなのである。  愛されたい。もっと愛されていたい。都合がいい、甘いだけの“一番目”の代用品なんて――もう嫌だ。  そう思うのに。奥さんと別れて欲しい、なんて言い出す度胸もない自分が一番嫌になるのである。いつもの自分なら、思ったことははっきり言えたはずなのに。そして、ダメならダメできっぱりこの恋を終わらせる決意もできたはずなのに。――やってはいけない領域に手を出したツケが重すぎて、それを今更思い知っているこの始末。馬鹿らしすぎて、笑い出したくなるほどだ。 ――このまま、終わりになっちゃうのかな。  言いたいことの全部を飲み込んで――梨花子は自宅のアパートに帰る。  ノブを握る直前に、部屋に灯りがついていることに気がついた。そして慌てる。今の今まで、自分が預かった少年のことをすっかり忘れてしまっていたからだ。 「!!やばっ…」  何時に帰るか、も彼には知らせていなかった。もう夜の九時だ。こんな時間まで彼は一人、狭くて汚い梨花子の部屋でじっと待っていたのだとしたら。それはどれほど心細かったことだろう。 「ごめん!悠梨君!帰ってくるの遅くなっちゃっ…て……」  慌ててドアを開いた梨花子は、あっけにとられることになる。 「…お帰りなさい、安藤さん」  漂ってくる、美味しそうな臭い。出しっぱなしのテーブルの上には、温かい食事が並べられていて、今まさにお茶を入れようとしていた悠梨と眼があったのだから。
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