<第三話>

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「……え、えっと、あの……」  動揺をどうにか押し隠して、居間に戻る。少年はお茶を入れ終えて、ちょこんとテーブルの横に座っていた。梨花子の顔をじっと見て、そして。 「すみません、ご迷惑だったでしょうか。勝手に冷蔵庫の中を漁ってしまったので…」 「う、ううん!そんなこと!そんなことないから!!」  慌てて否定する。迷惑?とんでもない。それどころか――むしろ。 「ちょっと…感動してた。誰かが御飯作って待っててくれるとか…そういうの、学生時代以来だったからさ…」  とても一般的かつ安価な食材の焼きそば。スープはレトルトだ。料理としてはけして高度なものではないだろう。それでも。  作って待っていてくれようとする、その気持ちが嬉しい。ずっと一人暮らしで、誰もいない部屋に帰るのが当たり前になっていた身としては――その厚意以上に嬉しいものなどないのである。 「ありがとう。…もしかしてお昼、食べてない?」 「はい。どれを食べていいものか悩んでしまったので…」 「うわあああごめん!ごめんね!カップ麺とかそのへん転がってるの、明日から適当に食べていいから!ていうか、買い足しておくよ。気づかなくて本当にごめんね!!」 「大丈夫です。少しくらい食べなくても死にません」 「そういう問題じゃないんだよ、まったくもう!」  この子は一体どういう育ち方をしてきたのだろう。礼儀正しいし、言葉遣いも年齢の割に非常にしっかりしている。手洗いうがいうんぬん、と言ってきたことからしても躾が行き届いているのは明白だ。でも――少しくらい食べなくてもいい、なんて発言が出ることには少々違和感がある。  育ち盛りの年齢、のはずだ。しかしよく見ると、小柄であることを除いても――彼の肩や足は、細すぎるような気がしている。体格の問題もあるだろうが、少々痩せすぎてはいないだろうか。
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