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『理由は後で必ず説明する…!でも今、話してる余裕なんかないの。見つかる前に、私も逃げないといけないから…!!』
逃げないといけない、と彼女は言った。
何かやばいことでもやらかしたのだろうか?――いや、梨花子の知る限り、松田紗世という友人はそういう人物ではない。むしろ非常におっとりしていて品がよく、不良やらヤンチャやらとは無縁の人物だった。だからこそ、昨夜は本当に驚かされたのである。――あんなに感情を顕にする彼女を見たのは、本当に初めてだったものだから。
『この子を匿って。…警察にも言わないで。出来る限り家の外にも出さないで。……見つかったら、今度こそ…悠梨は殺されるかもしれないの』
警察にも言わないで、というのがどうにも気にかかる。警察に言ったら捕まってしまう、ならわからないでもない。彼女か、もしくは悠梨が何かをしたならそういう考えにも行き着くだろう。が、よくよく考えれば悠梨はまだ十三歳。ギリギリ少年法でも捕まらない年齢だ。それに、彼女が危惧していたのは警察に捕まるようなことではないようだった。――見つかったら殺される。どうして?そんな言葉、ドラマの中でしか聞いたこともないというのに。
「……ご馳走様」
ぐるぐると考えながら、食事を終えた。悠梨は礼儀正しく手を合わせると、当然のようにすぐ二人分の皿をキッチンに持っていこうとする。
「あ、ちょっと待って悠梨君!話を…」
「お皿を水につけたらお話します。汚れが落ちにくくなってしまうので…」
「え?あ、うん…そ、それもそうだね…」
お前は主婦か!と思わずツッコミを入れたくもなる。言ってることは完全に真っ当だが。だからこそ彼の行動にはあちこち違和感が拭えないのだ。
まだ自分は何もわかっていない。わかっていないからこそ――知りたい。それはひょっとしたら、全然連絡をくれない恋人と、ストレスがたまりっぱなしの仕事を忘れるための――一種現実逃避にも近いものなのかもしれないけれど。
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