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嵐のようなノックの音で、安藤梨花子は叩き起された。
最初に思ったのは“やめてくれ!近所迷惑だろ!”である。――いかんせん、梨花子が住んでいるのはボロアパートの一室。一人暮らしだから同居人に迷惑はかからないが、アパートには少ないながら他にも住人が住んでいる。その住人が、少々気難しいのだ。こんな深夜に騒がしくしたりすれば、後でどんな文句をつけられるかわかったもんではないのである。
仕方なく、梨花子はパジャマ姿のままドアの前に立った。表に見せるような姿ではないが、そこは深夜にやってくる訪問者の方がいけないのである。覗き穴から外を見た梨花子は――必死でドアを叩く人物を見て仰天した。
――…!?紗世!?なんで…?
此処は東京。元々梨花子の故郷は愛知である。大学までは名古屋で通っていて、中学高校大学とずっと一緒に過ごした友人が同い年の松田紗世だった。彼女は地元で就職したはずである。今でもそこそこの頻度で連絡を取り合っていたから間違いない。そんな彼女がどうして東京にいるのだろう。しかも――どうやら、そこにいるのは紗世一人ではないらしい。
彼女の蔭に隠れるように、もうひとり少年の姿がある。俯いているので顔はよくわからないが、中学生くらいの年齢に見える。
「紗世!え、なんで…何で紗世此処にいんの!?」
真夜中に迷惑だ、煩い!と怒鳴るつもりでいた気持ちが吹っ飛んでいた。紗世の顔色は真っ青で、しかも急いで逃げてきたかのように――大荷物を抱えていたものだから。
「こんな夜中にごめん、梨花子…!非常識なのわかってるけど、お願いがあるの…!」
彼女は、必死の形相で――自分の傍に佇んでいた少年の背中を、ぐいっと押した。そして。
「この子を…悠梨を預かって!此処で匿って欲しいの!!」
あまりに非現実的で突然すぎる展開に――梨花子はあっけに取られて、口をあんぐり開ける羽目になったのだった。
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