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「どのような選択が正しいのか、僕にはよくわかりません。でも、僕に生きていてほしいと紗世さんが願うのなら、その願いも無下にするべきではないのだろうと思いました。誰かが願うなら、出来る限りその願いを叶える努力はしたいと思います。……しかし、それは紗世さんの望みで、安藤さんの望みではなかったはずなので…深夜に、突然押しかけてしまったこと、非常に申し訳ないとは思います」
ですから、と。
彼は特に感慨もないように、告げた。
「もし本気で、あなたが僕を迷惑だと思うのなら、仰ってください。行くあてはありませんが。どうにかしようとは思います。紗世さんには申し訳ありませんが、ご迷惑をおかけするわけにはいかないので。多分警察にでも相談すれば、何とか対応できるのでしょうし…」
「!」
そこで、どうして紗世が“警察に言うな”と言ったのか、理解できた気がした。
何の事情も知らない大人が彼を保護したとして、最初にすることはなんだろうか。普通ならそう――保護者を捜して、連絡するに決まっている。つまり、高い確率で――彼の両親に、連絡が行ってしまうのではないだろうか。
勿論、それこそ切羽詰った状況を詳細に説明し、悠梨が“連絡しないで”と止めた場合は話が別かもしれないけれど。彼は、“望まれないなら死んでもいい”と思っている様子である。連絡を止めることなどきっとしないだろう。――紗世が危惧していたのは、きっとそこなのだ。
殺そうとしてきているのが実の父というのなら。警察に行った時点で、父に居場所が知れてしまいかねない。そして、最悪の結果を招く。――詳しいことは何もわからないが、きっとそういうことだったのだ。
「駄目!」
だから、梨花子は叫んだ。
「け、警察とか!駄目!絶対駄目!保護者に連絡されたら、君は殺されちゃうかもしれないんだろ!?」
「でも…」
「駄目なものは駄目!絶対駄目!!そ、そりゃ…深夜に突然押しかけられた時はどうしたもんかとは思ったけどさ…!!」
迷惑をかけられなかった、と言えば嘘になる。紗世からは半日以上過ぎた今でも連絡は一切ない。詳しいことをもうちょい説明しておけや!と彼女に恨み言の一つや二つぶつけたくなる気持ちがないわけではないのだ。
でも。それは――この少年の罪ではない気がする。
何もわからないけれど、でも。
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