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「君は悪くないじゃん!そうだろ!?」
悪くない。そう言った瞬間、少年の死んだような眼が――少しだけ、見開かれるのを見た。
「ワケわかんないけど、もう関わっちまったんだって!それで、君にもしものことがあったって後で知ってみなよ、どんだけ寝覚め悪い思いすると思ってんのさ!やだやだ、ぜーったいやだ!後で“引き止めりゃ良かった”とか、君は私に一生後悔させたいのか!?」
「…いえ……」
「なら決まり、此処にいて!……ただ居るだけで納得できないっていうならさ。一人暮らしのOLの日常生活、ちょっとだけサポートしてくれないかな」
「……?」
意味がわからない、という様子で少年が首を傾げる。梨花子はにっと笑ってみせた。
「食材の買い出しはこっちでする。だから…今日みたいにさ。御飯作ったりとかしてくれないかな。毎日でなくてもいいよ。それでギブ&テイク、どお?」
小さな家政夫を雇ったようなもんだと思えばいい。いろいろツッコミどころはあるし、バレたらそれこそ自分も犯罪者扱いされそうなシュチュエーションではあるのだが(三十一歳女が十三歳の少年に手を出したらどう見ても犯罪だ、そう思われるのだけは避けたい)だからといってこの行き場のない少年を放置するなど有り得ない。自分の信念に反するというものだ。
「正直ね。…最近参ってたんだよな。いろいろ職場で嫌なこともあってさ。彼氏とも上手くいってなくてさ…」
「そうなんですか」
「そうなの。だからさ。……今日、家帰ったら電気ついてて、家があったかくなってて…美味しい御飯の匂いがしててさ。御飯作って待っててくれたコがいたんだよ。それがちょっと…マジで嬉しかったわけで、さ」
自分は、ウサギも真っ青の寂しがり屋だ。だから、妻も子もいる男にうっかり手を出してしまって、泥沼のような恋愛にもがいて抜け出せなくなっている。一人暮らしで、いつも電気のついていない真っ暗な部屋に帰って、一人寂しく御飯を食べて寝る毎日。――正直、それに耐えられていなかったのも事実だ。誰かに傍にいてほしくて、だから触れてはいけない禁忌に触れてしまった、実にしょうもない人間である。
でも、成り行きとはいえ――きっと期間限定だろうとはいえ。誰かが家をあっためて待っていてくれるとしたらそれは――それ以上に、嬉しいことなど何もないではないか。
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