<第五話>

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 梨花子の属する部署の仕事内容を簡単に説明すると。  送られてくるお客様の大量の契約ハガキを見て、それを整理し、そこに記入されている文字を見てパソコンの規定のソフトにひたすら打ち込んでいく――というものである。最初からデジタルならこんな手間はないのに、とか言ってはいけない。そもそも若い人なら多くがウェブページから申し込みしてくるご時世だからだ。ハガキで送ってくる人達は限られている。パソコンが家になくてウェブページが見られないか、そもそも見るやり方もよくわかっていないか、のどちらかなのだ。  つまり、年輩者が多い。昔からのアナログなやり方に慣れている方々に、スマホやパソコンからアクセスして申し込みをしてくれ、なんて言うのはいくらなんでも酷というものだ。  そして、この超高齢化社会において、中高年者の数と言うのは実に馬鹿にならないわけで。ハガキでの申し込み数もまた、増えることはあっても減らないのが現状だった。だからこそ自分達の仕事が成り立っているともいえるのだが――数が多ければノルマも増える。やっていることそのものはシンプルでも、単純作業だからこそ大変なこともあるのである。  単調な作業を、ミスなく長時間集中して続けるというのは存外難しい。  しかも、事務仕事というヤツは途中休憩を入れる義務が企業側に発生しない。以前はタバコを吸う人の存在もあって午前中に十分休憩が一度挟まれていたが今はそれもなくなってしまった(そして、タバコを吸わない梨花子のような人間はともかく、喫煙者は相当きつい思いをする羽目なったらしい。彼女達からすると、午前中に一度も煙草を吸いにいけないというのはなかなか死活問題であるらしかった。そういうものなのだろうか)。  だから、梨花子は思うのだ。一般事務の中でもデータ入力と呼ばれる仕事は――けして、難易度の低いものではないのだ、と。勿論チーフである梨花子には他にも仕事はあるものの、梨花子もメイン業務は同じ内容である。
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