<第五話>

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 そして、こういったデータ入力と主とする部署は、圧倒的に女性率が高いことでも知られているのだった。梨花子の職場もそうだ。部長や課長、センター長と言った管理職には男性もいるが、それ以外の職員は殆どが女性である。そして、正社員ではないことも少なくない。派遣だったり契約だったりアルバイトだったり――やっている仕事の内容ならばさほど勤務形態に関わらず同一だろう。違いがあるとすれば、残業が多いか少ないか、くらいである。  だからこそ。――同じ仕事をやっているのに給料が違うなんて、と揉める原因にもなっているわけだが。 「それでは、朝礼を始めます。本日は高田さんが休みです。今日の仕事内容ですが、まずは全員でハガキの仕分け作業から入って…」  梨花子はチーフとしてまず全員に仕事を割り振らなければならない。本当はずっと平社員でいたかった、というのが本音だった。それでも去年チーフを引き受けたのは――ひとえに、他に引き受けられる人間がいなかったから、である。  梨花子の同期はみんなやめてしまっていたし、さらに下の代の後輩たちも殆ど残ってはいなかった。自分が特別能力が高いとはとても思っていないが、それでもチーフなんて仕事の全体の流れを把握して皆のまとめ役ができなければ務まるものではないのである。他の――それこそ、契約社員で入った口ばかりの年輩社員達に任せられるかといえば、答えはノーだ。つまりほぼ、仕方なく、で引き受けた形だったのである。  そもそもチーフなんて名前がつく前から、ほとんど平社員で同じような仕事をしていたのだ。遅かれ早かれこうなるのは見えていたことだろう。――残業が一気に増えたことで、見通しの甘さを若干後悔させられる羽目にはなったのだが。 「…以上です。何か他に連絡事項がある方はいますか?」  今日も憂鬱だ。そう思ったのは、いつも噂話に事欠かない女性陣――特にいつも中心にいる一番年上の契約社員、竹田鮎美が。梨花子が説明している間も、ひそひそと隣の同期と喋っているのが見えていたからである。  もう仕事始まってるんだぞ、雑談してんじゃねぇよ――とは心の中だけで。注意したってどうせ聞く耳など持たないのだ、こういう類いの輩は。
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